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コンテンツに付随する価値

written by duke on

P2Pとかその辺のお話@はてな の 岸さんの言うとおり!既存のコンテンツ産業から搾取するのを止めよう! で Jamendo が勧められているのを読んだ。その主旨には賛成なのだが、それと同時に我々は「何故 Jamendo の音楽がそれほど聴かれていないのか」について考える必要がある。そこに、「コンテンツ」と呼ぶものに我々が実際に何を求めているのかを考える鍵があると私は考えている。そこを考えれば、Jamendo を勧めることが何故必要かも更に深く理解できるはずだ。

以前 コンテンツの終焉 というエントリを書いたことがあるが、私は「コンテンツ自体の価値」というものをあまり高く認めていない。我々が金を払ってコンテンツを購入するとき、実はコンテンツそのものに価値を見出して金を払っているというよりも、コンテンツに付随する別のものに価値を見出している方が割合として多い。
今回は、その「コンテンツに付随する別のもの」として、効用と手間の二つを取り上げてみる。

コンテンツの効用とは、コンテンツの入手により消費者が得る満足のことを指すが、必ずしもコンテンツそのものの価値と一致しないことに注意されたい。コンテンツの入手により副次的に得られる満足も含まれるし、むしろそちらの方が大きな満足をもたらすことも少なくない。
コンテンツの副次的効用のうち重要なものは「話題性」である。友人や同僚と会話する上でTVドラマの話題についていくことが必須であるといった場面はよく見かけられる。
ハードコアなファン、特に音楽のジャンルでそのようなファンが多いが、そういったファンの間ではこのような話題性を追いかけて音楽を聴くことが毛嫌いされる風潮も存在している。「純粋に音楽が良いから聴く」ことが当然であり、「話題になっているから聴く/友達を作るために聴く」のは邪道である、との考え方である。実は私もその考え方に賛同しなくもない。しかし現実には後者のような聞き方をする人も少なくない。ハードコアなファンであっても、同好のファン同士では会話がたいへん盛り上がるため、「共通の話題」としての効用は極めて高いと考えられる。
人々がこの「話題」としての効用だけを求めて楽曲コンテンツに金を払うとまで言い切るつもりはないが、現実の音楽産業がこの効用に支えられている部分はかなり大きいと私は見ている。ミリオンセラーを支えているのは間違いなくこの効用だろう。
また、共通の話題を効用として売るビジネスを考えた場合、このビジネスは売る側にとって著作権ビジネスと親和性が高い。良い音楽は Jamendo を初めとして世の中に山のようにあるので、「良い音楽ならどれでも良い」という消費者はどれでも安いコンテンツに移ることができる。ところが共通の話題としての効用を考えると、音楽全体よりも例えばメタルといった狭いジャンルで、ジャンルよりも単一のアーティストで、といったように狭い部分で一致していた方が話題として盛り上がる。このため囲い込みが可能となるのだが、囲い込んだ部分でがっちり金を取るのが著作権ビジネスなのだ。
かように、現実の音楽産業を見た場合、純粋にコンテンツとしての音楽を売っていると言うよりも、話題などの効用を売る、そして大規模なプロモーションなどもその効用を高めるために存在している、という側面が強い。これは他のコンテンツ産業にも共通する性格である。一方現状のコピーフリーなコンテンツは、そのような効用を高める施策がまだまだ弱い。Jamendo が広まらないのも、ネットワーク的効用が小さいから、という理由が大きいと私は見る。

もう一つの「手間」だが、私は「コンテンツ自体に金を払わない消費者でも手間を省くためなら金を払う」と認識している。
良い例が iTunes Store や Kindle だろう。同じコンテンツは手間さえかければネット上から海賊版を拾えるかもしれない。しかしそれには探したり取ってきたり時にはフォーマット変換までしたりと言った手間が必要になる。それが、欲しいときに直に探せてダウンロード購入できてそのまま視聴できる/iPodに入った状態になるなら、そのことに金を払う消費者も多いのだ。普段時給800円で働いている人がコンテンツ入手に15分以上かけるなら、200円払って購入した方が経済的には合理性がある。
そういう意味で私は、iTunes Store や Amazon を、コンテンツ販売業者というより、サービス業者として見なすのが正しいと考えている。彼らはコンテンツ販売で生計を立てているわけではなく、消費者の手間を減らすことで対価を得ているのだ。
音楽や映画などのメディア産業も、もともとはこの「手間を減らす」ことにより対価を得ていた部分が大きかったと私は考えている。ライブでしか聴けなかった音楽演奏をレコードという形で自宅で聞けるようにし、CDによってさらにその手間が減った、など。実はこの部分が近年 CCCD や DRM によっておかしな方向に進みつつあるのだが、これについては後でもう少し詳しく議論する。

上記の二点を踏まえて、コンテンツ産業からの搾取を減らすにはどうしたらよいかを考えてみる。

コンテンツ産業はコンテンツ製作以外に、例えば効用を高めるためのプロモーションに多大な投資を行っている。コンテンツの海賊版はその結果だけを横取りするので、まあ確かに「搾取」と呼ばれても仕方ないかもしれない。私はあくまで「コンテンツ自体に価値など無い」との立場を取るが、その立場を取る場合でも、プロモーション投資へのフリーライダーは確かにフェアで無い行為と感じられる。
ならばそれを整えるべきだろう。ディジタル技術の進歩は情報の複製に巨大資本を不要とした。次はプロモーション投資のような効用を増やす施策に進出し、ここからも巨大資本の必要性を無くして行くべきである。
差し当たっての手としては、「口コミによるプロモーション」が最も手っ取り早く、また Internet の現状にも合っている。したがって、Jamendo を推奨するような blog 記事を書くことは全く正しい。
ただし、巨大資本によるプロモーション投資と blog 等による口コミプロモーションを比較した場合、やはり向き不向きというものがある。現状の口コミプロモーションは「狭く深く」の方向には向くが、マスに薄く広くという広告効果を出しにくい。この点にはまだ改善の余地がある。ただし、Internet というメディア自体の向き不向きもあるので、よく考える必要はある。

それともう一つは、手間を減らすことである。「CDやDVDのパッケージを買ってくる」に比べて、「入手方法を学ぶ」ところから始めなければならないコンテンツは敷居が高いが、これも差し当たっては blog 記事によるプロモーションとセットにして進めることができるだろう。どうやれば簡単に入手できるかという情報を広めるという方法である。
ただ同時に思うのだが、手間を減らす部分は有料サービスとして残しておいた方が良いのではないかと言う気もしている。

効用を高めるためのプロモーションは種まき的な投資だが、手間の削減は実際にマネタイズ可能な収穫過程である。メディア産業が生き残るとしたら、ここか 流通制御 かしかない、というのが私の持論だ。近年のメディア産業は CCCD や DRM などおかしな方向を迷走しているが、「手間削減が金脈」ということが理解できていないわけでは無く、むしろきっちり金を取りつつ手間も減らすための方策を迷走しながら模索している、というの見方を私は取る。
今のメディア産業は迷走しているが、それでもこの部分の独占に掛ける情熱は強い。The Pirate Bay 裁判もその一環と私は見る。BitTorrent の Tracker である The Pirate Bay は、間接的ながらこの「P2Pの情報の海から自分の欲しいコンテンツを見つけるためのサービス」であり、この将来の飯の種においてメディア産業と真っ向から競うライバルとなる。それも、無料で提供することによってせっかくの飯の種を潰そうとしている、とも取れる。だからこそ、The Pirate Bay 潰しに躍起となる。
メディア産業は The Pirate Bay 潰しに著作権制度という武器を使っているが、彼らの本心は「自分達が権利を持っているコンテンツの違法配布を止める」だけでなく、「自分達がこれから進出しようとしている手間削減ビジネスにおける障害を今のうちに摘み取っておく」ことも同時に狙っている、というのが私の読みだ。
もし CC 的なコピーフリーのコンテンツのみを手間無く検索・ダウンロード・視聴できるサービスができたとしても、メディア産業はそれを喜ばないだろう。特に検索は流通制御とも深く関わる重要な金脈だ。おそらく、FOSS vs Microsoft 以上に熾烈なライバル関係となる。

巨大メディア資本を相手に戦うのも悪いことではない。最終的には巨大メディア資本の敗北が既に決定されている。しかしそこへ至るまでには長く険しい戦いが続く。著作権制度は完全に時代遅れの制度だが、この制度の抜本的改革ないし廃止にはなお数十年の年月がかかるだろう。それなら、完全に巨大メディア資本を包囲して殲滅戦を戦うより、一箇所だけ逃げ道を用意してそこに誘導して和睦に持ち込む方が、楽ではないかと思う。
日経での岸氏のような戯言につきあう必要は無いが、手間削減ビジネスだけはメディア産業にとってマネタイズできる余地を残しておいてあげるべきではないかと私は考えている。コンテンツ自体に価値は無いが、手間の削減なら価値あるサービスになる。メディア産業も雇用の維持などで急には舵を切れない事情があるが、何とか宥めつつ誘導する方法が無いか、私も無い知恵を絞っているところだ。


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