アメリカ民主党の大統領予備選でヒラリー・クリントンの最有力候補と見られているバラク・オバマの陣営が、Connecting and Empowering All Americans Through Technology and Innovation と題した政策要綱を発表した。
この政策の実現性については疑問・議論の余地のあるところが多いが、政治家の作った綱領として今まで見た中では最もテクノロジー分野に大きな比重を置いているものだとは言える。日本の政治家にも一読を勧めたい。概要を箇条書きにすると以下のようになろうか。
- Internet と多様性あるメディアによって自由な情報交換を促進する
- Internet のオープン性を守る (Net Neutrality の確保)
- メディアの寡占を防ぐ
- 子供を守ることと言論の自由とを両立させる
- プライバシーを守るためのセーフガードを構築する
- 開かれた政府を目指す
- 政府の情報や意思決定過程をオンラインで公開し、市民の参加を促進する
- 連邦政府にCTOを置き、新技術の導入を推進する
- 通信インフラの整備を強力に推進する
- 今の連邦政府は200kbpsをブロードバンドと呼んでいるが、再定義する
- ユニバーサルサービス基金を音声通信維持ではなくブロードバンド普及のために作り直す
- 無線周波数の開放を進める
- 学校/図書館/家庭/病院へのブロードバンド普及を促進する
- さまざまな問題を技術革新によって解決する
- ITの導入により医療費を抑制する
- 地球温暖化抑制のためにクリーンなエネルギー源を開発・導入する
- 教育を、21世紀の社会が求めているものに合致させる
- 技術革新を、コストの低減だけではなく、雇用の創出にも役立てる
- 災害対策にも新技術を導入し、カトリーナのような無様な失態を防ぐ
- アメリカの競争力を高める
- 基礎科学分野への助成を増やす
- 企業の研究開発費への減税を恒久化する
- H-1Bなど移民政策を見直し、優秀な頭脳の流入を促進する
- アメリカ企業の海外での活動を助ける
- 市場競争を高める
- アメリカの知的所有権を海外で保護する
- アメリカ国内での知的所有権、特に特許制度を大幅に改革する
「旧来の民主党政策にテクノロジーの衣を着せただけ」と批判するのは簡単だが、私はむしろここまで見事に衣を着せたことを評価したい。普通の国だの美しい国だの言うよりも前向きのメッセージ性を持っている。例えば「子供の安全 vs 言論の自由」の対立は結局「この辺りを落としどころとしませんか」と言った妥協とならざるを得ないが、そこに「タギングやフィルタリングを駆使して」という Web 2.0 っぽいシュガーを振りかけて誤魔化しているあたり、なかなかの手腕を感じる。アメリカ人の大好きなフロンティアスピリットに訴えかけるところも大きく、「リベラル=ハイテク、保守=ローテク」というレッテルを貼ることにもある程度成功している。それに、政策綱領の中で wiki という単語が使われた例が過去あっただろうか。
もちろん、実現性という点では普通の国や美しい国と大差無いかもしれない。例えば開かれた政府をワシントンで進めるのは難しいだろう。医療費抑制や代替エネルギーにも困難が予想される。テロ対策に絡んでアメリカで重要な問題となっているプライバシー保護については言っていることが曖昧すぎると Ars Technica でも批判されている。
今後は、これを受けて他候補者がどのように対抗してくるかが見ものだ。Network Neutrality や周波数割当についてキャリア企業の利益を代弁するような候補者も出てくるのだろうか。保守陣営からも「こちらこそハイテク」と巻き返す政策が出てくるのだろうか。
それにしても、外国人の我々から見ても面白い政策論争が選挙が展開されるという点については、アメリカという国を少々羨ましく思わないでもない。

