うっかり見落としてたんだけど、シーランド公国の歴史が 映画化 されるらしいですな。正気か。なんか IMDb にまで Sealand のエントリ ができてるし。それにしても 公式プレスリリースのページ の 0 diggs が涙をそそる。
ところで、前回シーランド公国の歴史について書いたエントリ では、クーデターのくだりについては 日本語版 Wikipedia を読んでね
、って書いたんですが、今日久々に Wikipedia 読んだら、クーデターのくだりが削除されてるんですね。まあこの事件については、いろいろ矛盾する報告があがってるし、著作権上の疑念も無きにしもあらずなので、Wikipedia ポリシーに合わんという気はしないでもない。
なので、カテゴリを humor にした上で、シーランド公国を揺るがした1978年のクーデター事件についての解説を書いてみます。資料が矛盾している箇所では 面白い方 の採用を心がけました。
もともとシーランドの首相にはドイツ人の Alexander G. Achenbach 教授が任命されていました。この人物はユダヤ系らしいということ以外情報が無いんですが(どこの大学で何を教えてた教授なのかも不明)、1975年に発布された公国憲法を起草したのはこの人のようです。1977年に開催された独立10周年記念式典にも出席し、その様子はドイツのニュース番組でも放送されたそうです。
1978年夏頃、ドイツとオランダのダイヤモンド取引業者のコンソーシアムと名乗る団体(この時点で既にあやしい)から、大公にビジネス提案を行いたいのでオーストリーまで来てくれないか、との申し出がありました。提案の内容は詳しく伝えられていませんが、シーランドのスペースの一部をカジノとして使いたい、という話だったと噂されてます。
大公夫妻はさっそくオーストリーに出向き、空港で5人の男に出迎えられます。ところが、その後で予定されていた会合の時間になっても男達は現れず、何の連絡もありません。不審に思った夫妻は、公国に残してきた Michael 皇太子と連絡を取ろうとします。と言っても当時のシーランドには電話が無かったため、近くに住んでいる知り合いの漁師に電話したと(大公はイギリス陸軍を除隊した後しばらくは漁師をして生計を立てていた過去もある)。すると、シーランドに向かってヘリコプターが飛んでいくのを見た
という報告が。
数日後、ようやく皇太子から連絡が来ます。大公からの緊急連絡のテレックスを届けにきたと称してヘリコプターがやってきて、ところが着陸すると、中から出てきた男たちが無理やりシーランドを占拠。それも Achenbach 首相がこの男達に協力していた様子です。皇太子は一室に監禁され、三日後に船に乗せられてオランダまで連れていかれてそこで解放されました。皇太子は所持金もパスポートも無い状況でしたが、どうやってか大公まで連絡をつけたというわけです。一方 Achenbach 首相は大公の廃位を宣言。名誉革命によってシーランド公国を掌握したと発表します。
怒った大公は、元陸軍大尉としての経験とコネを使ってシーランド奪還部隊を組織します。その中には、007の映画でヘリコプターの操縦を務めたというスタントマンも入ってたらしい。ヘリコプターでの急襲と言うとかっこいいんですが、実際には皇太子が間違ってショットガンを一発ぶっぱなした時点でクーデター側がすぐ降伏したみたい。まあそんなこんなで、クーデター側一味は 捕虜 として扱われることに。
捕虜のほとんどはオランダ国籍だったため、終戦 と同時に解放されます。大公曰く 我が国はジュネーブ条約を遵守する
と。いや署名国の中にシーランドは見当たらないんだが…
ただし、捕虜の中でシーランド籍のパスポートを持っていた者、Gernot Pütz なる当時34歳の西ドイツ人弁護士らしいんですが、この人はシーランド国民と見なされ、75,000ドイツマルクの罰金を払うか、さもなくば国家反逆罪で終身刑、と宣告されます。Achenbach は奪還作戦のとき運よく不在だったっぽい。
困ったのは西ドイツ政府。なんせ真面目なドイツ人ですから、真面目に対応してしまうわけですな。まずはイギリス政府に「何とかしてくれ」と相談しますが、イギリスは「裁判で主権が及ばないという判決が出てるから」とけんもほろろ。仕方が無いので西ドイツ外務省の人間をシーランドに派遣して解放交渉に当たらせることにしました。
こういう機会を絶対逃さない大公は、「西ドイツが正式な外交官を派遣してきた、これはシーランド公国が外交的に承認されたに等しい」と発表。Pütz に対しては恩赦ということで解放します。
この後 Achenbach や Pütz は西ドイツにシーランド亡命政権の樹立を宣言。合法的に廃位されたロイ大公はもはや正式な国家元首では無い
との立場を掲げ、Achenbach が Chairman of the Privy Council (枢密院議長) に就任。憲法改正を行って、大公空位のまま枢密院議長が国家元首を兼ねることを正式決定したんだそうな。例のパスポートが15万通も出回ってるという件は、どうもこっちの亡命政府が乱発してるみたいですな。Achenbach は1988年に健康上の理由で議長を引退。その後を継いだ Johannes W. F. Seiger なる人物が今も枢密院議長をやってるそうです。Seiger から入院中の Achenbach に宛てたメール の中で I am truly sorry that as a member of the Jewish faith
てあるから、この人もユダヤ系だな。
亡命政府のサイト もあるでよ。しかしこのサイトもまたいい加減たいがいやな。FAQリストでは シーランド市民権申請の方法
が書いてある一方で、シーランドのパスポートが購入可能かとの質問に対しては あり得ない! まともな国家であればパスポートを販売するわけがない!
と。しかも続けて しかし偽造パスポートの問題はどこの国にも存在しており、我々も同じ問題に悩まされている
だと。
なるほどこれなら映画化しても面白いかもしれん。
以上書くにあたっては、Damn Interesting の記事、オスロ大学による研究資料、Sealand Forum で見つけた記事(元は Independent Magazine に載った記事らしい)、および ペンシルベニア州立大の学生が作文の授業で書いたロイ大公への賛辞文 を参考にしました。え、最後のやつは信憑性が無いって? でもこの学生は、この賛辞を書くに当たって下書きをシーランド公国政府に送って確認してもらったらしいよ。賛辞を書いたことに対する Michael 摂政皇太子殿下からの謝意を伝えるメール まであるでよ。

