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情報のストック vs フロー

written by duke on

「全く新しい Web 2.0 というパラダイムによって様々なものが劇的に変わる」と言いたがる人は多いが、むしろ「歴史の底層に一貫して流れる大きな変革の流れが存在し、それが時代時代の要請に従って水面の上に現れたり沈んだりするのだが、今は Web 2.0 という形で現れている」と捉えた方が正しいと思われる。「Web 2.0 はそのうち沈む可能性が高い」との見方を私は取るが、Web 2.0 が滅んでも底層の力強い流れは止まることが無い。

ITmedia / Speed Feed の今日の記事 Six Apartの平田さんの言葉 に出てきた「キャプチャーすることが価値 → 情報を出すことが価値」という話も、Web 2.0 などというような矮小な話ではなく、歴史の大きな流れとして位置付けられよう。

この種の話は「皆で情報を出し合ってシェアすればハッピー」的な Web 2.0 式ユートピア幻想の文脈で語られることが多いが、私は少し違った見方を取る。つまり、情報のストック重視からフロー重視への流れである。

情報を「持っていること」すなわちストックによるコンピタンスは、時代とともに減少し続けてきており、その流れは遥か先史時代にまで遡ることができる。人類が文字を発明する以前は、過去を記憶していることがコンピタンスであり、老人が尊敬されたのもそのためだった。文字の発明は、当然ながらその時代のことが記録に残っていないのでよくわからないが、おそらくは活版印刷の発明以上のショックであり、大きな社会変動をもたらしたと推測される。
その後も情報ストックのコンピタンスは弱まり続けてきた。ヨーロッパで活版印刷による聖書が作られると、教義という情報ストックを源としていたカトリック教会の支配が解体され、宗教改革という荒々しい波が水面上に姿を現すことになる。16〜17世紀のヨーロッパが激しい宗教戦争に蹂躙されたことは Europa Universalis に描かれている通りである。

ストックに代わって興ってきたのは、情報フローをうまく活用することのコンピタンスである。情報をストックとして隠し持っても、それを永続的な価値とすることはもはやできない。「他人より早く手に入れた」という一時的な価値が関の山である。そして Internet 社会が到来すると、隠し持つよりも、「他人より早く情報を手に入れた」ことを自慢する方が、大きなメリットを生むようになった。
もちろんただ単に自慢するだけでなく、手に入れた情報に新たな価値を付加して放流する方が、より大きなリターンをもたらす。付加価値をつける方法としてはフィルタリング/要約/解説/延長/組み合わせなど様々なものがあるが、そうやって「情報に付加価値をつけてフローを生み出せる能力」が大きなコンピタンスとなるに至ったのだ。

情報ストックよりもフローが大きく重視される社会というものは、決してユートピアではない。ストックに価値があった時代は、能力や意欲が衰えた後でも過去の蓄積で食っていくことが可能だった。しかしこれからの社会では、人は常にフローを出し続けることを求められる。更新の止まった blog が見捨てられるように、フローを出せなくなった人はそこで終り。社会全体は単位時間あたりの生産性という面で最適化されるが、個々人の幸福という観点ではそうとも限らない。
だが、この大きな歴史の流れを止めるというのも非現実的な話だ。もしこの変化が Web 2.0 によって始まったものであれば、Web 2.0 バブルの崩壊とともに元に戻ることになる。しかしそうはならない。たとえ Web 2.0 バブルが弾けようとも、そんな葉枝末節の些細事とは関係なく、情報ストックの価値はますます減じ続け、フローの価値は増大し続けるだろう。そして我々も、否応なしに、そのような社会の中で生きていかねばならない。


2 Responses to “情報のストック vs フロー”

  1. pingback from Rauru Blog » Blog Archive » アラスカ航空 vs bloggers

    [...] このような「叩き」は、旧来のマスメディアにも (特に日本では) しばしば見られる現象だが、Web 2.0 というか大衆直接参加メディアの時代ともなるとその悪い面が桁違いに激しく現れる。あるいはこれも歴史の大きな流れの一つなのかもしれない。いずれにせよ、アラスカ航空がこの騒ぎをどう抑えるか、あるいは抑えられないか、興味深い。 [...]

  2. pingback from ず's » 記事「新聞・テレビ断末魔」(東洋経済)、そしてフローとストックを考える

    [...] 情報のストック vs フロー (Rauru Blog) [...]

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